朝のくだらない話

世間的には、どうやら梅雨が明けたらしい。
どんよりと重たそうな夕方の曇り空を眺めながら、「おい、梅雨が明けたんだろう。どうしたんだい、辛気臭い顔をして」なんて嫌味なフレーズを思い浮かべる。


無愛想な私がよく他人から言われる言葉だった。
身体の部位の中で、たぶん口角が1番重力がかかっているんじゃないかと思うほど、私は笑うのが下手だった。


それでよく喧嘩もした。
別段機嫌が悪いわけではないのだが、ぼうっと突っ立っていると「何かあったの?」と心配されたし、笑っているつもりが表情筋が動いてなくて怒っていると思われて泣いて罵られたこともある。
こればかりは困ってしまう。私が楽しいということが他人に伝わらない(思っていることは表に出さないと親にだって伝わらないので、私が悪いのだが)せいで、相手が傷ついて抗議して、それに傷ついた私がムッとして反論するという負の連鎖が始まってしまう。


それなので、どうにも笑わなければ、笑わなければ、と思ってしまう。しかし、愛想笑いができるほど器用な人間でもないので口はへの字を描いたまま動いてはくれないのだ。自分の顔なのに自分で動かせないんだから、人間というのは不思議な生き物である。私が福笑いだったら、いますぐ目隠しを取ってこのへの字口をくるっと回転させてしまうのに。

 


今朝、道をのたらくたらと気怠そうに歩いていた。朝はこれでもかというほど真っ青な空に、ギラギラと恥ずかしげもなく照りつける太陽が私を炙って素知らぬ顔をしていた。


背筋を伸ばした杓子定規の会社員、スマホを見たり前を見たりと水飲み鳥みたいな高校生、風に負けないくらいビュンビュンと走り抜ける自転車、道行くそれらを眺めながら間抜けた顔で歩く私。


ふと、道に3本のひまわりが身を寄せ合って伸びているのを見つけた。
ひまわりは、大きくて、可愛くて、スピーカーみたいな筒状花の周りにフリルみたいな、プリーツスカートみたいな小さな花びらが広がっていて好きだ。


3本のひまわりはすごく密集して植わっていた。
そんなに近くて君たちは暑くないのかい?と1人でもうんざりするくらい暑い私は、ちょっとうんざりした気持ちになった。


しかしまあ、どうだろう。
ひまわりというのは、向日葵、ソレイユ、サンフラワーという名前の通り、太陽に向かって美しく咲く花のはずだが、私の見かけた3本のひまわりたちは皆一様に項垂れていた。
枯れかけている、というわけでもなさそうだったが、しゃんと伸びているのは茎ばかりで、花はぐでんと下を向いていた。


こんなご時世だ。
もしかしたらひまわりもスマホを持っていて、スマホに熱中してしまってスマホ首になってしまったのかもしれない。いや、もしかしたらひまわりの愚痴大会で水やりがどうとか虫がどうとか言ってるのかも、なんて馬鹿なことを考えていた。

 


ひまわりたちのうなだれ集会の横を通り過ぎる。
気になったのでちょっと振り返った。


やっぱり下を向いて項垂れていた。

 


それを見てたらなんだかおかしくなってきて、ちょっと気持ちが晴れた。
ひまわりも、うなだれる夏があるのだなあ。
いっつも元気に咲いてるばかりじゃないんだなあ。

 


私は愛想がないけれど、なんだか楽しくなって、ウキウキして、ワッハッハと笑いたくなった。


まあ、道端で突然ワッハッハと1人で笑い出したら文字通り日の光を見れなくなりそうなのでやめておいたが。

 

そういえばこの前、文章も無愛想だと言われた。無愛想な文章ってなんだ。逆に文章に愛想があるのか。

ニコニコと笑う文字。今にも踊り出しそうな文字列。それってどんな文章だ。

 

なんだ、星でもつけてみたらいいのか☆

ハートもつけたらどうだ♡☆

 

どうなんだ、おい☆♡♪★○△□♦︎