音を楽しむと書いて音楽

昔から音楽と縁がなかった。

小学二年生の時に、朝と帰りにみんなで合唱する習慣があった。それを歌い終わった時、前の席のマナミちゃんがパッと振り返って「あんた、音痴だね!」と笑った。

 

三年生の時、休み時間に友達と話していてサザエさんの話題になったのでテーマ曲を口ずさんだ。「音外れすぎて違う曲かと思った」と言われた。


五年生の時、劇をすることになって、私はいわゆるメイン級の役をもらった。嬉しくて熱をこめて演技すると、先生たちは喜んでくれて、演出を追加したいと言われた。セリフが増えるなら覚えないといけないな、とワクワクした私に「そうだ、みんなで歌うところ、君にソロパートを増やそう!」と言ったので、私はそんなことをするならこの役を降りると泣いて喚いた。
先生も、私の歌を聞いて納得してくれた。


六年生の時、音楽の授業で口パクがバレて前に立たされた。音楽の先生は「好きな言葉はあるか?」と聞いてきた。私はクソガキだったので、質問に答えずに「バーカ」と言った。すると、先生は「そんな言葉が好きなのか。変わってるな」と頓珍漢なことを言って「バーカ」の「バー」でドレミファソラシドを私に音が揃うまで歌わせた。どんな拷問よりも辛かった。


中学生の時、合唱コンクールがあった。嫌いな行事の一つだった。私は最初に口パクをした。するとすぐにバレた。たぶん音感がなかったので口パクすらズレてたんだろうな。


「優勝したいんだから、真剣に歌ってよ」


と女子に泣かれた。
だから私は思い切って一生懸命歌うことを誓った。女子も喜んでくれた。そして、CDを自主的に借りて家で聴いて練習もした。翌日、にっこりと微笑んで大声で練習した歌声を響かせた。


女子に呼ばれた。

昨日泣いて私に歌うことを強要した女が、苦笑いで言った


「ごめん、その、昨日あんなこと言ったけど、無理して歌いたくないなら口パクでも良いよ……特別ね?」


ちなみに、これまで音楽の成績で2と3以外取ったことがない。

 


私はこうして、音楽が苦手になった。

 


台所で流行りのポップスを鼻歌交じりに奏でる母も、ドライブで勢いよくフォークソングを響かせる父も、自室で何気なくアニメソングを歌ってる兄も、学生時代の思い出にふけりアルバムを覗く祖母の「仰げば尊し」も、全部全部音を外していた。


一体何世代前まで音痴なんだ?と思った。

 


しかし、そんな音痴で苦しめられた私だが、音楽は嫌いではない。
歌を歌うことも苦手意識は消えないけれど、カラオケに行って楽しんだりするのは好きだった。
歌うと恥ずかしさで死にそうになるけれど、歌を歌うのは楽しかった。


そんな私だが、最近流行に乗っかってラップを作るのが趣味になった。元々ノリのいい音楽が好きだったので、流行の某ラップバトルコンテンツの曲も聞いていたが、ラップを作るのは想像以上に難しい。


まず8小節とかリリックとかフロウとかライムとか、音楽の専門用語がわからない。
それに韻を踏むために一つのワードをいろんな意味に置き換えて探さないといけない。


ただ、それが楽しかった。
素人のラップなのでかなり稚拙なお遊びでしかないのだが、これに没頭してると時間を忘れてワードを考え込んでしまう。暇つぶし、というと本業の方にとても失礼になってしまうのだけれど、時間の空いた時何気ない言葉で韻を踏んで遊ぶのが心地よかった。


最近、気心知れた友人相手に唐突に自己紹介ラップを作って送るようになった。ラップで返してくれる子もいた。楽しかった。ある日、友人の一人がこう言った。

 

 


「深夜に送りつけるポエムと変わらない味がある」

 

 


大正解だ。